目次
はじめに
M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の成長戦略や事業再編において重要な手段です。一方で、M&Aは法務リスクを多く内包しており、法務部門が適切に関与しなければ重大なトラブルにつながりかねません。本記事では、企業法務の観点からM&A実務における主要な留意点を整理します。
M&Aの一般的なプロセス
- 基本合意(LOI)の締結
独占交渉権の付与や基本的な条件を定める。法的拘束力の有無を明確にすることが重要。 - デューデリジェンス(DD)
法務DDを中心に、対象会社の契約関係、許認可、労務、訴訟・紛争リスクなどを精査。ここでの指摘事項は、最終契約の表明保証や補償条項に直結する。 - 最終契約(SPA/株式譲渡契約等)の締結
価格調整条項、表明保証、誓約事項、補償条項などが中心的論点となる。 - クロージング手続き
株式譲渡、役員変更、登記、関係官庁への届出などを実行。 - ポストM&A対応(PMI)
システム・人事・コンプライアンス体制の統合における法務的支援。
法務担当者が注意すべき主要論点
- 契約リスクの洗い出し
継続的契約(販売代理店契約、ライセンス契約等)に「チェンジ・オブ・コントロール条項」が含まれていると、株主変更により契約が解除されるおそれがある。 - 労務・人事関連リスク
未払残業代、非正規雇用の扱い、就業規則の整合性など。M&A後に紛争化する例が多い。 - 規制法令遵守
金融商品取引法、独占禁止法、外為法(外国投資規制)など、取引スキームや当事者の属性により関連法令が大きく変動する。 - 表明保証・補償の設計
買主にとってはリスクヘッジの要、売主にとっては責任範囲をどこまで限定するかが重要な交渉ポイント。 - クロージング条件
官庁への許認可取得、第三者同意の取得、社内承認手続きなど。条件不充足でクロージングが遅延するリスクもある。
実務上の工夫
- DDの段階から事業部と密接に連携し、実態に即したリスク評価を行う。
- 取締役会・株主総会の承認スケジュールを見据えて、社内ガバナンス体制を前広に準備する。
- PMI段階でのガバナンス体制統合を意識して、契約や規程の「標準化」プランを並行して検討する。
まとめ
M&Aはスキーム設計からPMIまで長期間に及び、多岐にわたる法務的課題を伴います。企業法務担当者は、法務DDでリスクを的確に抽出し、契約交渉でそのリスクを適切にコントロールし、さらにクロージング後の統合作業にまで関与することが求められます。単なる「契約書の確認者」ではなく、M&Aプロセス全体のリスクマネジメントを担う存在としての役割がますます重要になっています。




