目次
はじめに
グローバル化が進む中、海外企業との取引は一般化しています。しかし、国際取引における債権回収は、言語・法制度・距離といった障壁により国内取引以上に困難を伴います。特に中小企業では、未回収債権が経営に直結するリスクも高いため、法務部門が事前にリスク管理を行うことが不可欠です。
国際取引特有のリスク
- 法制度・裁判制度の違い
各国で契約法制や訴訟手続が異なるため、国内の感覚では対応できない。 - 執行可能性の問題
判決を得ても、相手国で執行できるとは限らない。国際条約や相互執行の仕組みを確認する必要がある。 - 言語・文化の壁
督促交渉ひとつ取っても、言語や商慣習の違いが障害になる。 - 距離・コスト
海外訴訟や現地弁護士の活用は費用負担が大きい。
債権回収の手段
- 任意回収
- 英文督促状(Reminder/ Demand Letter)の送付
- 国際的に信用調査会社を通じた督促依頼
- 国際仲裁や現地商工会議所のADRを利用
- 裁判外の解決
- 国際仲裁(ICC、SIAC、HKIACなど)
契約で仲裁条項を定めておけば、国際的に執行可能性が高い。 - 調停(Mediation)
柔軟な解決手段として注目されているが、相手方の協力が前提。
- 国際仲裁(ICC、SIAC、HKIACなど)
- 裁判による回収
- 相手国の裁判所に提訴する場合、現地の弁護士を選任する必要がある。
- 日本の裁判所で勝訴判決を得ても、相手国で承認・執行できなければ実効性はない。
実務上のポイント
- 契約書での予防策が最重要
- 準拠法(Governing Law)
- 管轄裁判所条項(Jurisdiction Clause)
- 仲裁条項(Arbitration Clause)
- 支払条件(前払・信用状利用)
これらを契約段階で明確化することで、トラブル時の回収可能性を大きく高められる。
- 支払手段の工夫
- L/C(信用状)、前払金、エスクローなどを利用し、リスクを最小化する。
- 現地専門家との連携
- 各国の弁護士、商社、取引銀行との連携が実務上欠かせない。
まとめ
国際取引の債権回収は「事後対応」では限界があり、契約締結時のリスクヘッジこそ最大の防御です。法務部門としては、単に契約書をレビューするだけでなく、相手国の法制度や商慣習を踏まえて支払条件・紛争解決手段を設計する役割が求められます。トラブルが発生した場合には、現地の専門家や国際仲裁機関を活用しつつ、コストと回収可能性を冷静に見極めることが重要です。








