目次
はじめに
M&Aは企業の成長戦略や事業再編に不可欠な手段ですが、同時に多くの法務リスクを伴います。法務部が適切に関与することで、取引の安全性やスムーズな実行が確保されます。本記事では、M&Aに関して法務部が押さえておくべき重要なポイントを5つに絞って解説します。
1. 契約スキームと法的枠組みの理解
M&Aには「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」など複数のスキームがあり、法的効果や手続きが大きく異なります。
- 株式譲渡:手続が比較的簡易だが、簿外債務リスクを承継。
- 事業譲渡:承継対象を限定できるが、契約の個別移転や許認可承継に手間がかかる。
- 合併・会社分割:包括承継であり、組織再編特有の登記・公告手続が必要。
法務部は、経営層や財務部門と連携し、スキームごとのリスクとメリットを整理する必要があります。
2. デューデリジェンス(法務DD)の徹底
M&Aにおける最大のリスク管理ツールは法務DDです。
- 継続契約におけるチェンジ・オブ・コントロール条項の有無
- 許認可・ライセンスの承継可否
- 労働契約・未払残業代リスク
- 訴訟・紛争・コンプライアンス違反の有無
これらを洗い出し、最終契約の表明保証・補償条項に反映させることが不可欠です。
3. 表明保証・補償(R&W)の設計
買主側にとってはリスクヘッジ、売主側にとっては責任範囲の限定という両面の意味を持つ重要条項です。
- 範囲を「知る限り(to the best of knowledge)」に制限するか
- 補償の存続期間をどこまでとするか
- 免責額(デミニマス、バスケット条項)をどう設定するか
法務部は、自社が買主か売主かによって、交渉戦略を整理しなければなりません。
4. 規制法令・許認可対応
M&Aは契約当事者間の問題にとどまらず、外部規制にも直結します。
- 独占禁止法:一定規模以上の取引は公取委への届出が必要。
- 外為法:外国投資家が関与する場合は事前届出・審査の対象となることがある。
- 業法許認可:金融業、建設業、医療業などは許認可承継の可否を要確認。
見落とすとクロージング自体が不可能になるため、契約条件(クロージング条件 precedent)に必ず盛り込むべきです。
5. ポストM&A(PMI)を意識した契約設計
M&Aはクロージングで終わりではなく、**統合(PMI: Post Merger Integration)**が成功のカギです。
- 人事制度・就業規則の整合性
- コンプライアンス規程や内部統制の統一
- 知的財産・ブランドの整理
- グループ内取引契約の再編
法務部は、**「契約締結後にどんな統合作業が待っているか」**を踏まえて、契約交渉に臨む必要があります。
まとめ
M&Aにおける法務部の役割は、単なる契約書チェックではなく、
- スキーム選択
- リスク洗い出し(DD)
- 表明保証・補償の設計
- 規制法令対応
- PMIを見据えた統合支援
という一連のプロセス全体にわたります。これらを体系的に理解し、経営層や外部専門家と連携することが、M&Aを成功に導くための鍵となります。




