はじめに

債権回収の現場では「勝訴判決を得たのに回収できない」「保全を怠って回収不能となった」といった失敗例が後を絶ちません。依頼者の期待に応えるためには、典型的な失敗パターンを理解し、未然に防ぐことが不可欠です。

失敗事例① 保全を怠ったために資産隠しを許したケース

事例:訴訟で勝訴したものの、判決確定前に相手方が資産を移転。強制執行を試みても、預金や不動産は空になっており、実質的に回収不能となった。
回避策

  • 早期の仮差押え・仮処分を検討。
  • 相手の財産調査を訴訟前に行い、保全の実効性を確保。

失敗事例② 証拠不十分で請求が棄却されたケース

事例:請求書や口頭合意はあったが、契約書や納品記録が不足しており、裁判所が債権の存在を認めなかった。
回避策

  • 契約書・注文書・納品書・請求書・メールなどを網羅的に収集。
  • 証拠の「連続性」を意識し、取引の一連の流れを示せる形で整理。

失敗事例③ 少額案件に過大コストを投下したケース

事例:数十万円の債権に対し、通常訴訟を選択。弁護士費用・印紙代が高額となり、回収額よりコストが上回ってしまった。
回避策

  • 少額訴訟支払督促を優先的に検討。
  • 着手金・成功報酬を依頼者と事前に明確化し、費用対効果を共有。

失敗事例④ 相手方倒産で回収不能になったケース

事例:交渉中に相手方が破産申立てを行い、債権届出をしたものの、無担保一般債権としてほとんど配当が得られなかった。
回避策

  • 平時から担保設定(動産譲渡担保・売掛債権担保など)を意識。
  • 取引開始時に代表者保証を確保するなど、倒産リスクに備える。

失敗事例⑤ 交渉姿勢を誤り依頼者の取引関係を破壊したケース

事例:弁護士が強硬に督促した結果、依頼者が重要視していた取引関係が断絶。短期的な回収はできても、中長期的には依頼者の損失となった。
回避策

  • 依頼者の経営方針・取引戦略を事前に確認。
  • 強硬策と交渉型のバランスを取り、和解的解決の余地を常に残す。

まとめ

債権回収は「勝訴=回収」ではありません。弁護士としては、

  • 保全で先手を打つ
  • 証拠の整備を徹底する
  • 費用対効果を依頼者と共有する
  • 倒産リスクに備える
  • 依頼者のビジネス関係を尊重する
    といった観点を実務に組み込むことが重要です。典型的な失敗事例を理解し、事前に対策を講じることで、より確実かつ依頼者満足度の高い債権回収を実現できます。